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病院・施設の除菌対策、MDRO保菌や感染症入院が低下/JAMA

 地域内で協力して行った、病院の患者(接触感染予防で入院した患者に限定)と長期介護施設入居者に対するクロルヘキシジン浴(清拭・シャワーを含む)とヨードホール消毒薬の経鼻投与の除菌対策(universal decolonization)により、多剤耐性菌(MDRO)の保菌者割合、感染症の発生率、感染関連の入院率、入院関連費用および入院死亡率が低下したことが示された。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のGabrielle M. Gussin氏らが、地域内35ヵ所の施設で行った医療の質向上研究の結果を報告した。MDROによる感染症は、罹患率、死亡率、入院の長期化および費用の増大と関連している。地域介入によって、MDRO保菌および関連する感染症の軽減が図られる可能性が示唆されていた。JAMA誌オンライン版2024年4月1日号掲載の報告。カリフォルニア州オレンジ郡のヘルスケア施設35ヵ所で試験 研究グループは2017年7月1日~2019年7月31日に、カリフォルニア州オレンジ郡の35ヵ所のヘルスケア施設を通じて試験を行った。長期介護施設入居者と、接触感染予防で病院に入院している患者を対象に、クロルヘキシジン浴とヨードホール消毒薬の経鼻投与を実施し、地域内のMDRO保菌率などを検証した。 主要アウトカムは、(1)試験参加施設におけるベースラインと試験終了時のMDRO保菌率、(2)試験参加・非参加施設におけるMDRO臨床培養の陽性率(スクリーニングを除く)、(3)試験参加・非参加ナーシングホームの入居者における感染関連の入院率と入院関連費用、入院死亡率だった。MDRO保菌率、長期介護施設で52%減少、病院でも25%減少 試験参加施設は計35施設(病院16、ナーシングホーム16、長期急性期病院[long-term acute care hospitals:LTACH]3)だった。 試験参加施設のMDROの平均保菌率は、ナーシングホームではベースラインの63.9%から介入により49.9%に、LTACHでは80.0%から53.3%にそれぞれ減少した(両施設のオッズ比[OR]:0.48、95%信頼区間[CI]:0.40~0.57)。接触感染予防で病院に入院する患者のMDRO保菌率も、同じく64.1%から55.4%に減少した(OR:0.75、95%CI:0.60~0.93)。 月当たり平均のMDRO臨床培養陽性件数(SD)は、ナーシングホームの場合、試験参加施設では月平均2.7(1.9)件から1.7(1.1)件に減少し、非参加施設では1.7(1.4)件から1.5(1.1)件に減少した(群×期間交互作用の減少:30.4%、95%CI:16.4~42.1)。病院の場合は、試験参加病院では25.5(18.6)件から25.0(15.9)件に減少したが、非参加病院では12.5(10.1)件から14.3(10.2)件へ増加した(群×期間交互作用の減少:12.9%、95%CI:3.3~21.5)。LTACH(全施設が試験に参加)では、14.8(8.6)件から8.2(6.1)件に減少した(期間減少:22.5%、同:4.4~37.1)。 ナーシングホームの感染関連入院率は、試験参加施設では1,000入居者日当たりでベースラインの2.31件から介入により1.94件に減少し、非参加施設では同1.90件から2.03件に増加した(群×期間交互作用減少:26.7%、95%CI:19.0~34.5)。また、ナーシングホームの感染関連入院費用も、試験参加施設では1,000入居者日当たり6万4,651ドルから5万5,149ドルに減少したが、非参加施設では5万5,151ドルから5万9,327ドルに増加した(群×期間交互作用減少:26.8%、95%CI:26.7~26.9)。ナーシングホームの感染関連入院死亡率も、試験参加施設では1,000入居者日当たり0.29件から0.25件に減少したが、非参加施設での変化は0.23件から0.24件だった(群×期間交互作用減少:23.7%、95%CI:4.5~43.0)。

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ナーシングホーム入所者に対するユニバーサル除菌は感染症による入院を予防できるか?(解説:小金丸博氏)

 ナーシングホームに入居する高齢者では、感染症による入院リスクや薬剤耐性菌(MRSA、ESBL産生菌など)の保菌率が高いことが懸念されている。今回、ナーシングホーム入所者に対して除菌を行うことで感染症による入院を減らすことができるかを検討したランダム化比較試験の結果が、NEJM誌オンライン版2023年10月10日号に報告された。除菌を行った群では感染症による入院が減少し(ベースライン期間と介入期間のリスク比:0.83、95%信頼区間:0.79~0.88)、日常ケア群とのリスク比の差は16.6%だった。ランダムに抽出した入所者に対して行った多剤耐性菌の保菌率は除菌を行った群で減少を認め、日常ケア群と比較した相対リスクは0.70(95%信頼区間:0.58~0.84)だった。感染症による入院を1件防ぐのに必要な治療数(NNT)は9.7件であり、ナーシングホーム入所者に対するユニバーサル除菌は有効性の高い予防法である可能性が示唆された。 過去の研究において、ICUセッティングや種々の医療機器装着患者に対する除菌により感染リスクが低減することが示されていたが、同様の結果が高齢者介護施設入所者においても示された。今後、日本においても介護施設を利用する高齢者の増加が予想されており、除菌という介入を行うことで施設からの病院受診や入院を減らすことができるのであれば、医療経済の観点からも有用な知見と考える。 本研究で実施された除菌では、10%ポビドンヨードの鼻腔内塗布(隔週ごとに1日2回5日間)およびシャワー入浴時に4%クロルヘキシジン含有洗浄剤(ベッドでの清拭にはリンス不要の2%クロスヘキシジン含有クロス)を使用した。除菌による有害事象として発疹が34件、咽頭炎が1件報告されているものの重篤なものは認めておらず、安全性に関しても大きな問題はなさそうである。今後、本試験で行われたような高齢者施設入所者に対する除菌を実効性のある介入方法とするには、使用する消毒薬剤のコストの問題を解決することや、ケアを行う介護者の負担軽減が不可欠になると考える。

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介護施設の入浴時ユニバーサル除菌、感染症入院リスクを低下/NEJM

 ナーシングホームにおいて、全入所者に対するクロルヘキシジンの使用とポビドンヨード経鼻投与による除菌は、通常ケアよりも感染症による入院リスクを有意に低下することが示された。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のLoren G. Miller氏らが、ナーシングホーム28ヵ所の入所者計2万8,956人を対象に行ったクラスター無作為化試験で明らかにした。ナーシングホームの入所者は、感染・入院および多剤耐性菌の保菌率が高いといわれる。NEJM誌オンライン版2023年10月10日号掲載の報告。ベースライン18ヵ月、介入期間18ヵ月を設定 研究グループは、ナーシングホームにおける入浴について、ユニバーサル除菌法と通常ケアを比較した。試験対象のナーシングホーム28ヵ所を無作為に割り付け、それぞれ18ヵ月のベースライン期間と、18ヵ月の介入期間を設定した。除菌群の介入期間にのみ、入浴とシャワーにクロルヘキシジンを使用し、また入所後5日間、1日2回鼻にポビドンヨードを、その後は2週間ごとに5日間、1日2回鼻にポビドンヨードを投与し除菌を行った。 主要アウトカムは、感染症による病院への移送。副次アウトカムは、理由を問わない病院への移送だった。各アウトカムについて一般化線形混合モデルを用い、ITT集団(as-assigned)について差分の差分(difference-in-differences)分析を行い、ベースライン期間と介入期間を比較した。感染症による入院、両群間でリスク比の差は16.6% ナーシングホーム28ヵ所から入所者2万8,956人のデータを入手し解析した。 通常ケア群における病院への移送者のうち、感染症の割合(全施設平均)は、ベースライン期間が62.2%、介入期間が62.6%だった(リスク比:1.00、95%信頼区間[CI]:0.96~1.04)。除菌群では、ベースライン期間の同割合は62.9%、介入期間は52.2%と、介入期間で低く(リスク比:0.83、95%CI:0.79~0.88)、通常ケア群と比較したリスク比の差は16.6%だった(95%CI:11.0~21.8、p<0.001)。 ナーシングホームからの退所者のうち、あらゆる理由で病院へ移送された人の割合は、通常ケア群ではベースライン期間で36.6%、介入期間で39.2%だった(リスク比:1.08、95%CI:1.04~1.12)。除菌群では、ベースライン期間で35.5%、介入期間で32.4%(リスク比:0.92、95%CI:0.88~0.96)で、通常ケア群と比較したリスク比の差は14.6%(95%CI:9.7~19.2)だった。 as-assigned解析からのデータに基づく治療必要数(NNT)は、感染症による入院を1件防ぐのに9.7、理由を問わない入院を1件防ぐのに8.9だった。

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軽度熱傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第1回

はじめまして!聖マリアンナ医科大学病院 救急医学の沼田と申します。主に救急科で勤務しながら、総合診療医、小児救急、集中治療を勉強してきました。最近は緩和ケアを勉強しています。オフ・ザ・ジョブトレーニングでは、外科系救急初期診療を学ぶ「T&Aマイナーエマージェンシーコース」のコアメンバーとして活動しています。このコラムでは、かかりつけ医が診る機会の多い軽症救急疾患の治療を、救急医の視点でわかりやすく解説していきます。初回は熱傷の中でもI、II度の軽度熱傷の治療についてです。熱傷にはさまざまな原因がありますよね。天ぷらを揚げていた、子供が電気ケトルを倒した、カセットコンロが爆発した…など。熱傷の加療の方向性はほぼ同一ですが、医師によって使用する薬剤や被覆材にはばらつきがあると感じています。大まかな治療に関してはAmerican family physicianの「Outpatient burns: prevention and care」と日本熱傷学会の「熱傷診療ガイドライン(改訂第3版)」を基に、私の経験も交えながらポイントを解説します1,2)。22歳男性。夜間にカップラーメンを食べようとして、カップに熱湯を入れて移動した際に転倒し、熱湯が両腕にかかり受診。既往歴なし、内服歴なし、アレルギー歴なし、バイタル特記事項なし。右前腕に5cm程度の発赤、左前腕に3cm程度の発赤と水疱が2ヵ所ある。水疱の1つは1cm程度、もう1つは3cm程度で破れている。これは、私が近くに皮膚科がない地方の内科外来で働いていたときに経験した症例です。熱傷の治療は、ステップを踏んで診察をしていくことが重要ですので、今回はこの症例を基にどういう判断や対応を行ったかお話しします。1. すぐに入院が必要かどうかの判断(1)受傷部位私の専門が救急であり、火災などによる熱傷に遭遇することもありますが、その場合に最も警戒するのは気道熱傷です。火災が関連している熱傷では、顔面熱傷がないかどうかを確認し、気道熱傷がある場合は人工呼吸管理を行うため入院が必要です。今回の症例は、両腕に熱湯がかかったことによる熱傷ですので気道熱傷はありません。(2)熱傷面積熱傷の面積によっては病院や熱傷センターなどへの搬送が必要になりますので、熱傷の範囲を把握します。よく使われるのが「9の法則」です。頭部、右上肢、左上肢をそれぞれ9%、体幹部の前面、後面をそれぞれ18%、右下肢、左下肢をそれぞれ18%、陰部を1%として熱傷面積を推定します。画像を拡大するまた、熱傷面積が小さく、散在しているときは「手掌法」を用います。これは、手のひらの大きさを体表面積の1%と換算して熱傷面積を推定します。患者の入院の必要性を判断するにあたっては、「Artzの基準」がよく用いられます。II度熱傷の面積が15~30%、III度熱傷の面積が2~10%で一般病院での入院加療が必要とされています。逆に言えば、この面積以下であれば外来通院でよいでしょう。今回の症例の熱傷範囲は1~2%程度ですので、外来通院としました。2. 後日専門医への相談が必要かどうかの判断(1)受傷部位受傷部位で専門的な加療が必要かどうか変わってきます。顔面、手指、肛門、陰部の熱傷や、大関節(肩、膝、股関節)を超える熱傷は、美容や機能予後に影響を与えるので、可能であればなるべく早く専門医に診察してもらいましょう。(2)深達度熱傷には、I度、II度、III度があります。I度は発赤のみ、II度(浅達)は水疱を形成して水疱底の真皮が赤色、II度(深達)は水疱を形成して水疱底の真皮が白色、III度は白色皮革様もしくは褐色皮革様で感覚が消失します。III度熱傷は、適切に治療したとしても拘縮して植皮が必要になる可能性が高いため、専門医に紹介するべきです。II度の浅達か深達かの判別は専門医でなくては困難ですが、治療もとくに変わらないので必ずしも判別する必要性はないと考えます。この患者は、右前腕は発赤のみでI度、左前腕は水疱を形成していてII度熱傷となります。3. 治療(1)冷水での洗浄ここからは、症例のような軽症熱傷を通院加療する流れを記載します。どこで受傷したとしてもまず推奨されるのが冷水での洗浄です。実は強いエビデンスはないと言われていますが、熱傷を負った人の治療で「水で洗う vs.水で洗わない」の検証は倫理的に問題があり行えないため、実際の効果を検証することは困難です。どこでも、すぐに、安価にできるので、受傷後なるべく早く10分程度洗ってもらいましょう。ただし、20分以上の冷水での洗浄や氷水の使用は組織障害や低体温を起こすことがあるため控えます。●右腕(I度)右腕のI度熱傷の治療は、基本的には適切な鎮痛薬の内服のみで完了します。しかし、熱傷は時間とともに進行することがあり、今日はI度であったとしても翌日には水疱を形成してII度に進行していることはしばしば経験するので、進行する可能性があることをしっかりと説明しましょう。進行した場合はII度として治療を行います。●左腕(II度)II 度熱傷の場合は、まずは水疱が保たれているかどうかを確認しましょう。水疱内は清潔ですので、破れていなければ基本的には保存的に加療します。American Family physicianでは水疱のサイズが6mmを超える場合は破膜するよう指導されていますが、私は2~3cmでも保存的に加療しています。重要なのは、患者自身が水疱を保護できるかどうかで、難しいようであれば破膜します。保存的に加療する場合は、ガーゼをかぶせて保護し、もし破れてしまった場合は受診するよう指導します。この症例では、3cmの大きいほうの水疱が破れていました。水疱が破けている場合や、水疱を破膜した場合の治療はどうでしょうか? 私はまずリドカイン塩酸塩ゼリー(商品名:キシロカインゼリー)を塗布してから創部を洗浄しています。その後、破れた水疱の膜を残しておくと感染のリスクがあるため除去します。なお、アルコールやポビドンヨード液などによる消毒は組織障害が生じるため、参考文献2つはいずれも推奨していません。私も創部がよほど汚染されていない限り使用はしません。(2)創部の被覆被覆材にはさまざまなものがあります。メディカルオンラインで「創傷・熱傷被覆材(ドレッシング材)」と検索すると、サイズや用途はさまざまですが130個ほど出てきます。これらの有意性に関する報告は限られていますが、元々熱傷にはスルファジアジン銀が使用されており、それに対する非劣性や有意性を示した論文はあるため、どれを選択しても大きくは変わらないと考えます。その中で、私は基本的には白色ワセリン+ガーゼを使用しています。理由はどこの施設でも置いていて、安価で簡便だからです。患者には、ワセリンをたっぷりと塗って、最低1日1回交換するよう指導して帰宅とします。私がインストラクターとして参加しているT&Aマイナーエマージェンシーコースでは、ガーゼ1枚の範囲を覆う場合、約20gの白色ワセリンの使用を推奨しています。画像のとおり「ぷにゅっとする」くらい厚塗りします。画像を拡大する熱傷の範囲に合わせて調節しますが、熱傷の初期は浸出液が多く、頻回にガーゼ交換が必要ですので、私は患者に白色ワセリンを最低100g渡しています。以前、とある外来で、軟膏がすぐになくなったのでガーゼのみを張って、乾燥して創部に引っ付いてしまった患者がいて、剥ぐのに苦労したことがありました。必ず「軟膏なしでガーゼのみを張るのは控えましょう」と伝えてください。ちなみに、白色ワセリンはドラッグストアでも販売しているので、必ずしも病院を受診して受け取る必要はありません。(4)ステロイド軟膏ステロイド軟膏は、有用性を示すエビデンスに乏しく、安易に使用するべきではないという意見がある一方で、局所の炎症兆候に対して推奨する意見もあるのが現状です。American Family physicianでは使用を推奨せず、本邦の熱傷診療ガイドラインでは「専門医が抗炎症効果を期待して使用する際は、ステロイドの副作用に十分注意しながら、受傷早期(2日間程度)に使用することが望ましい」とされているので、非専門医である私は原則使用しません。(5)外来フォロー推奨された通院間隔はなく、あくまで私のプラクティスを紹介させていただきます。I度熱傷であれば通院の必要はなく、鎮痛薬の処方で終診です。しかし、II度へ移行した場合は再診するよう指導しています。II度熱傷は状況により通院間隔が異なります。その見極めは自力で被覆交換ができるかどうかです。自力で被覆交換が可能であれば、患者の症状に合わせて3~7日程度のサイクルで通院してもらいます。自力での被覆交換が難しい場合は1~3日ごとに通院してもらいます。被覆終了のタイミングは、「ガーゼに浸出液が付かなくなったとき」と伝えています。フォロー中に患者からよく訴えられる症状は、疼痛と掻痒感です。疼痛は初期から生じますので、私は初めからNSAIDsかアセトアミノフェンで対応しています。ただし、数日経って急激に痛みが増悪する、創部に熱感が生じる場合は感染した可能性があるため受診するよう指導します。かゆみが出た場合は抗ヒスタミン薬の有効性が示されているため処方します。今回は、軽度熱傷の症例を例に挙げながら、どういう判断や対応を行ったかお話ししました。軽度熱傷はかかりつけ医が診る機会がありますが、美容や機能予後に影響を与えることも多々あるので、重症度や受傷部位によっては専門医へ相談しましょう。これから定期的に非専門医向けの軽症救急処置のコラムを連載いたします。可能な限り根拠に基づきながら、自身の経験を織り交ぜていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いします!1)Lanham JS, et al. Am Fam Physician. 2020;101:463-470.2)日本熱傷学会編. 熱傷診療ガイドライン(改訂第3版).2021.

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見逃しがちな、「あの部分」の診察【非専門医のための緩和ケアTips】第45回

第45回 見逃しがちな、「あの部分」の診察緩和ケア診療、というとオピオイドの適切な投与や患者コミュニケーションのイメージが強いようですが、実は「身体診察」も大切だったりします。とくに意識しないと忘れてしまうのが「口腔内の診察」。これを怠ったがゆえに、痛い目に遭うことがあります。今回もいただいた質問を元に考えてみましょう。今日の質問先日、訪問診療をした患者さん。寝たきりで本人は症状を訴えられないのですが、苦しそうだと家族から相談がありました。原因がわからず、診断的治療と考えてオピオイドを導入したのですが、その後、訪問看護師より「口の中が白くなっていて、カンジダのようだ」と連絡がありました。口腔カンジダが苦痛症状の原因かははっきりしませんが、口腔内を診察しなかったことを後悔しています。はい、私も同じ経験があります。というか、皆さんもこれに近い経験はあるのではないでしょうか? 診察後に、看護師や時には家族が気付いて指摘される…。中でも緩和ケアの臨床でしばしば遭遇するのが、口腔カンジダです。口腔カンジダはご存じのとおり、免疫状態の悪化した患者さんやステロイドなどの免疫抑制状態の患者さんに生じる真菌感染症です。口腔内の症状を訴える患者さんの口の中を見ると白いポツポツと斑点がある、というイメージです。治療は抗真菌薬の含嗽剤などで行います。口腔カンジダは口腔内の痛みの原因となります。患者さんが「口の中が痛いです」と言ってくれればわかりやすいのですが、患者さんが正確に症状を訴えることができないこともしばしばです。なので、「こういう患者さんでは口腔カンジダも注意!」と忘れずに口腔内も丁寧に診察しないと、気付くことができません。見逃しやすい疾患です。このような特徴から、今回のように看護師が気付くこともしばしばです。要注意な疾患として看護師とも情報共有し、気になった点を共有できるチーム医療ができるといいですね。医師が気付くことが難しくても、職種間の連携によって患者さんに必要な医療が提供できればOKだと思います。気付いてくれた看護師に感謝を伝えつつ、ちょっとだけ反省しながら頑張っていきましょう!今回のTips今回のTipsがん患者の緩和ケアでは、口腔カンジダのことを忘れないようにしましょう。

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コロナ陽性判定後の鼻洗浄で重症化リスクが1/8に!?

 新型コロナウイルスの陽性判定後であっても、1日2回の鼻洗浄によって入院や死亡のリスクが低減することが、米国・Augusta UniversityのAmy L Baxter氏らにより報告された。新型コロナウイルスはACE2受容体に結合して細胞内に侵入することが知られているが、ACE2受容体にまだ結合していないウイルスを洗い流すことで、重症化を防ぐことができる可能性がある。Ear, Nose & Throat誌オンライン版2022年8月25日掲載の報告。 解析対象は、2020年9月24日~12月21日に実施された新型コロナウイルスのPCR検査で陽性となり、24時間以内に登録された55歳以上のハイリスク患者79例。平均年齢64±8歳、女性が36例(46%)、非ヒスパニック系白人が71%、平均BMIが30.3であった。 参加者を、240mLの生理食塩水に、10%ポビドンヨード液(2.5mL)または重曹(2.5mL)を混和した群に無作為に割り付け、14日間、1日2回鼻洗浄を行った。ポビドンヨード群は37例、重曹群は42例であった。主要評価項目は登録28日以内の新型コロナウイルス感染による入院または死亡で、副次的評価項目は鼻洗浄による症状の軽減であった。対照群は、米疾病対策センター(CDC)のデータにより、同期間に新型コロナウイルス陽性が判明した50歳以上の296万2,541例であった。 主な結果は以下のとおり。・参加者は、79例中62例が連日鼻洗浄を行った(1日平均1.8回)。・入院はポビドンヨード群で1例発生し、重曹群ではいなかった(1.27%)。死亡は両群ともいなかった。・対照群では、28万533例(9.47%)が入院し、入院データのない患者の死亡は4万4,773例(1.5%)であった。・対照群の入院・死亡リスクは、鼻洗浄を実施した人の8.57倍であった(標準誤差[SE]:2.74、p=0.06)。・鼻洗浄液の種類にかかわらず、1日2回の鼻洗浄を実施した人のほうが症状の軽減が早かった(x2=8.728、p=0.0031)。

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創部の消毒【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q23

創部の消毒Q23症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのもためらわれるため、自分で縫ってみる。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗ったぞ。あとは…縫合前に消毒か?「看護師さん、ポビドンヨードある?」

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切り傷の縫合処置(創部確認~局所麻酔~消毒)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第3回

第3回 切り傷の縫合処置(創部確認~局所麻酔~消毒)《解説》前回は、擦過傷(擦り傷)についての基礎的な解説をしました。今回は、切創の縫合処置について、基本的なことを何回かに分けて説明していこうと思います。※咬傷などの術後感染が懸念される場合については、また別途解説予定です。けがから8時間以内の切り傷は一次縫合の適応受傷後8時間以内で汚染が少ないと考えられる切創であれば、縫合処置で一次治癒(切り傷がそのままくっついて、傷痕が少なく治る状態)を目指しましょう。その場で縫合を行うかの判断は、創の部位、汚染の有無、基礎疾患などを考慮し、リスクを患者さんにしっかり説明したうえで行います。どうしても迷って決断できない場合や、縫合の手技が難しいと考えた場合は、洗浄と軟膏処置のみ行い、できるだけ早めの形成外科受診を促してください。それでは、実際の処置の流れを説明します。(1)創部の確認まずは、創を簡単に確認しましょう。顔面は、眼瞼や耳介、鼻など特徴的な形態の部位が多く、また口唇の赤唇と白唇といった解剖学的に境界線を有する組織もあるため、ランドマークは先にマーキングしておきましょう。後ほどの処置で、局所麻酔薬による腫脹やエピネフリンによる血管収縮で境界がわからなくなってしまうことがあります。(2)洗浄:必要に応じて局所麻酔と組み合わせる前回取り上げた擦過傷と同様に、洗浄が大切です! 切創の場合、洗浄前に縫合処置の必要性が高そうだと判断できるならば、先に局所麻酔をしておくと、創部を観察しやすくなるのでおすすめです。とくに小児の場合は、表面麻酔をしてから局所浸潤麻酔をすると、麻酔時の痛みも軽減できます。洗浄の方法については、前回の記事も参考にしてください。(3)局所麻酔皮膚表面の外傷に対して主に使用するのは、表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔です(ほかに、脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔などがあります)。外来で最も一般的なのは局所浸潤麻酔で、薬剤を皮下や粘膜下に直接注射して浸潤させる方法です。表に、よく使用する局所麻酔薬をまとめました。pKaは作用発現の速さ、分配係数は効果の強さ、蛋白結合率は作用時間の長さと関連しています。たとえば、リドカインだと数分で麻酔が効いてきて、1〜1.5時間(エピネフリン添加であれば2時間)作用が持続しますよ!表:よく使用する局所麻酔薬と各指標なお、麻酔にはリスクが伴うことも念頭に置いておきましょう。薬剤の血中濃度が高くなり過ぎると、中枢神経や心筋のナトリウムチャネル遮断が起こり、中毒症状(めまい、舌のしびれ、耳鳴り、多弁、興奮状態、意識障害、痙攣、昏睡、呼吸停止、循環虚脱)が発現する恐れがあります。麻酔前に同意書を書いていただく際などに、再度リスクについての説明をしておきましょう。禁忌や慎重投与(陰茎、指鼻などの末端部位)でなければ、1%エピネフリン含有リドカインを使うことが多いです。エピネフリンは血管収縮の作用があり止血効果、麻酔薬作用時間の延長効果があります。しかし、動悸頻脈を引き起こすことがあるので注意しましょう。《麻酔時の痛みが出やすいタイミングと対処法》注射薬や洗浄時に皮膚が切れるとき⇒表面麻酔を併用し、30Gなどの細い注射針を使用しましょう。薬剤が浸潤するとき⇒最初は狭い範囲に注射を行い、薬剤をゆっくり注入(slow injection)して、薬が浸潤したところから徐々に広げていきましょう。pH調整(炭酸水素ナトリウム注射液を約10%混ぜるなど)も有効です。極量とは:これを超える量は局所麻酔薬中毒を誘発する危険性が高く、使用してはならない量。極量の半分を超える用量を目安に注意を要します。例)リドカイン1%の極量は5mg/kg(体重50kgの場合25mL) エピネフリン含有リドカイン1%の極量は7mg/kg(同上35mL)(4)その他の麻酔方法:ブロック麻酔指や顔でも、範囲が大きい場合はブロック麻酔を使うと便利です。《指ブロック麻酔》エピネフリンを添加していない麻酔薬を用いることが多いです。指の神経は、漫画にも示した図のように手背側では伸筋腱の両側面の皮下を走行しており、手掌側ではMP関節(指の付け根)の付近で二つに分かれて屈筋腱の両側を走行しています。そのため、指間部で背側2ヵ所、掌側2ヵ所に麻酔薬を注入します。《顔面のブロック麻酔》鼻などはかなり痛みが強い部位なので、顔の神経ブロックを併用すると薬剤の注入時も疼痛が軽減できます。眼窩上神経は三叉神経第1枝の抹消枝であり、眉毛部や前額部の痛みに適応、眼窩下神経は三叉神経第2枝領域であり、下眼瞼や上口唇、鼻腔領域の痛みに適応します。また、オトガイ神経ブロックは、下口唇や頤部の痛みに適応します。切創ではとくに、創部の除痛をしっかり行って洗浄しましょう。砂や小石などの異物はすべて取り除きます。この時に、損傷の深さはどのくらいなのか(たとえば、皮下組織までにとどまっているのか、筋層まで断裂しているのか、腱や神経、主要な血管の損傷がないかなど)を再確認しましょう。(5)消毒、ドレーピング縫合前準備の仕上げとして、縫合する範囲とその周囲を消毒しましょう。顔面にエタノールは、目や粘膜の刺激になるので絶対にやめてくださいね!外来なら、クロルヘキシジン0.05%やポビドンヨードなどが置いてあると思います。ポビドンヨードは術野に色が付いてしまうので、状況によって使い分けてくださいね。今回は、縫合前の準備についてまとめました。次回は、縫合に使用する道具の選択や使い方について解説していく予定です!参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.2)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.3)土肥 修司ほか編. イラストでわかる麻酔科必須テクニック. 羊土社;2019.4)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.5)岡崎 睦 編. PEPARS(ペパーズ)127 How to局所麻酔&伝達麻酔. 全日本病院出版会;2017.6)一般社団法人 日本創傷外科学会ホームページ

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第21回 大統領選のダシにされたCOVID-19血漿療法、日本でも似たようなことが!?

まだ、治療薬もワクチンも決定打がない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。そんな最中、米国食品医薬品局(FDA)は8月23日、COVID-19から回復した患者の新型コロナウイルスの中和抗体を含む血漿を用いた回復期血漿療法に対し、緊急使用許可を発行した。FDAによる緊急使用許可は抗ウイルス薬レムデシビルに次いで2例目だ。この緊急時使用許可の直後の会見でドナルド・トランプ米大統領は「信じられないほどの成功率」「死亡率を35%低下させることが証明されている」「この恐ろしい病気と戦う非常に効果的な方法であるとわかった」などと絶賛。同席したFDAのステファン・ハーン長官もこの死亡率35%低下を強調。しかし、この死亡率低下の根拠データが不明確との批判を受け、ハーン長官自身が謝罪に追い込まれる事態となった。さてこの1件、そもそも発端となっているのはメイヨークリニック、ミシガン州立大学、ワシントン大学セントルイス医学大学院が主導する「National COVID-19 Convalescent Plasma Expanded Access Program」により行われた臨床研究である。この結果は今のところプレプリントで入手可能である。そもそもこの試験は単群のオープンラベルという設定である。ここで明らかになっている主な結果を箇条書きすると以下のようになる。診断7日後の死亡率は、診断3日以内の治療開始群で8.7%、診断4日目以降の治療開始群で11.9% (p<0.001)。診断30日後の死亡率は、診断3日以内の治療開始群で21.6%、診断4日目以降の治療開始群で26.7% (p<0.0001)。診断7日後の死亡率は、IgG高力価 (>18.45 S/Co)血漿投与群で8.9%、IgG中力価(4.62~18.45 S/Co)血漿投与群で11.6%、IgG低力価 (<4.62 S/Co) 血漿投与群で13.7%と、高力価投与群と低力価投与群で有意差を認めた(p=0.048)。低力価血漿投与群に対する高力価血漿投与群の相対リスク比は診断7日後の死亡率で0.65 、診断30日後の死亡率で0.77 だった。これらを総合すると、トランプ大統領が言うところの死亡率35%低下は、最後の診断7日後の高力価血漿投与群での相対リスク比を指していると思われる。もっとも最初に触れたようにこの臨床研究は単群のオープンラベルであって、対照群すらない中では確たることは言えない。その点ではトランプ大統領もハーン長官も明らかなミスリードをしている。そして各社の報道では、11月に予定されている米大統領選での再選を意識しているトランプ大統領による実績稼ぎの勇み足発言との観測が少なくない。とはいえ、COVID-19により全世界的に社会活動が停滞している現在、治療薬・ワクチンの登場に対する期待は高まる中で、今回の一件は軽率の一言で片づけて良いレベルとは言えないだろう。そして少なくともトランプ大統領周辺では大統領への適切なブレーキ機能が存在していないことを意味している。大統領選のダシにされた血漿療法、日本は他人ごと?もっとも日本国内もこの件を対岸の酔っぱらいの躓きとして指をさして笑えるほどの状況にはない。5月には安倍 晋三首相自身が、COVID-19に対する臨床研究が進行中だった新型インフルエンザ治療薬ファビピラビル(商品名:アビガン)について、その結果も明らかになっていない段階で、「既に3,000例近い投与が行われ、臨床試験が着実に進んでいます。こうしたデータも踏まえながら、有効性が確認されれば、医師の処方の下、使えるよう薬事承認をしていきたい。今月(5月)中の承認を目指したいと考えています」と前のめりな発言をし、後のこの試験でアビガンの有効性を示せない結果になったことは記憶に新しい。もっと最近の事例で言えば、大阪府の吉村 洋文知事が8月4日、新型コロナウイルス陽性の軽症患者41例に対し、ポビドンヨードを含むうがい薬で1日4回のうがいを実施したところ、唾液中のウイルスの陽性頻度が低下したとする大阪府立病院機構・大阪はびきの医療センターによる研究結果を発表。これがきっかけで各地のドラッグストアの店頭からポビドンヨードを含むうがい薬が一斉に底をついた。これについては過去にこの結果とは相反する臨床研究などがあったことに加え、医療現場にも混乱が及んだことから批判が殺到。吉村知事自身が「予防効果があるということは一切ないし、そういうことも言ってない」と釈明するに至っている。もっとも吉村知事はその後も「感染拡大の一つの武器になる、という強い思いを持っています」とやや負け惜しみ的な発言を続けている。ちなみに今年2月から始動し、7月3日付で廃止された政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の関係者は以前、私にこんなことを言っていたことがある。「吉村大阪府知事や鈴木北海道知事など新型コロナ対策で目立っている若手地方首長に対する総理の嫉妬は相当なもの。会議内で少しでもこうした地方首長を評価するかのような発言が出ると、途端に機嫌が悪くなる」今回の血漿療法やこれまでの経緯を鑑みると、新型コロナウイルス対策をめぐる政治家の「リーダーシップ」もどきの行動とは、所詮は自己顕示欲の一端、いわゆるスタンドプレーに過ぎないのかと改めて落胆する。新型コロナウイルス対策でがっかりな対応を見せた政治家は日米以外にもいる。もはや新型コロナウイルスが炙り出した「世界びっくり人間コンテスト」と割り切ってこの状況を楽しむ以外方法はないのかもしれない。

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COVID-19対策のうがいは是か非か

 8月上旬、大阪府知事の吉村 洋文氏は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策にうがい薬ポビドンヨード液を推奨する緊急記者会見を開いた。この会見の報道を受け、うがいは新型コロナ感染症対策として優先順位は低いなどと発言する一部の専門家もいたが、やはり口腔ケアは感染症対策として重要なのではないだろうかー。2020年8月5日に開催された第2回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナーで、阪井 丘芳氏(大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室教授)が「COVID-19と唾液腺~重症化予防のための新たな口腔ケア」について講演し、口腔の衛生管理の重要性について語った。COVID-19拡大予防にうがいは重要 COVID-19流行前から口腔ケアと感染症に関連した研究を実施している阪井氏は、1)高齢者の誤嚥性肺炎と窒息のリスクの緩和、2)口腔ケアを行う医療従事者の効率化と安全性の向上、3)口腔ケア製品の抗菌性を高め、ウイルス性・細菌性肺炎を予防、4)現場のニーズに合った優れた口腔ケア用品の開発と普及を目標に活動を行っている。 今回のポビドンヨード液の報道時には、うがいの根拠について議論が巻き起こったものの、口腔ケアにより要介護高齢者の発熱・肺炎発生率が低下することは約20年前の論文1)ですでに裏付けされていた。また、感染には体内の2大細菌叢である腸内細菌叢と口腔細菌叢が影響するが、「後者はう蝕や歯周病の原因になり、口腔細菌が肺へ移行し肺炎リスクに繋がる」と説明。また、インフルエンザなどウイルスによる肺炎は上気道から侵入するケースが多い点にも触れた。 COVID-19の場合、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が肺に存在する受容体であるACE2に結合するため、肺へ直接侵入する可能性が高いと言われている。しかし、ACE2の発現量は肺よりも唾液腺にやや多いことが報告されている。これを踏まえて、同氏は「健康な肺にはもともと防御機構があるので、ある程度口腔細菌の制御は可能だが、SARS-CoV-2によって上皮細胞が損傷すると、細菌感染が生じる可能性がさらに高まる。現在までの研究報告によると、SARS-CoV-2自体単独では強毒性ではないかもしれないが、重症化因子として口腔細菌が関与している可能性もある。2次性細菌性肺炎を防ぐためにも口腔衛生の徹底が必要」と強調した。また、COVID-19の高齢患者の死亡率が高い理由として、「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん:気付かないうちに生じる誤嚥)をきっかけとして、2次性細菌性肺炎が重症化したのが原因では」と推測し、今後の検証の必要性を述べた。 新型コロナ感染対策でうがいは唾液中のウイルスを一時的に減少 現在、唾液を用いたCOVID-19のPCR検査が実施可能である。鼻咽頭ぬぐい液による検査では患者の負担だけではなく、医療者への感染リスクが問題とされたが、唾液PCR検査はそれらの問題解決に繋がるばかりか、無症状者への対応も可能となった。他方で、同氏は口腔・咽頭粘膜はSARS-CoV-2の侵入経路だけではなく、付近の唾液腺がその貯蔵庫になる可能性が示唆2)されていることに着目し、「効果的な口腔ケアと生活様式での対応の両者が必要」とコメント。しかし、現時点で口腔内の消毒薬として認められているのは、10%ポビドンヨード液と0.01~0.025%塩化ベンザルコニウム液のみであることから「要時生成型亜塩素酸イオン水溶液(MA-T:Matching Transformation system)などを用いた新たな口腔用消毒薬の確立に努めたい」と話した。 最後に同氏は「学校や会社を休みたくないがゆえに、ヨード系うがい薬でうがいをしてから唾液PCR検査を受けて偽陰性の結果や診断を得るような、社会的に逆効果になる問題も予想される」としつつも、「誰が感染しているかわからない状況下において、うがいは唾液中のウイルスを一時的に減少させるため、会話や会食前・最中のうがいは人にうつす可能性を減らすかもしれない。効果の持続時間やうがい方法、吐き出した液による洗面台周囲のウイルス汚染など、検証すべき事項が多数あり、結論を導くには時間を要するが、感染対策として口腔衛生管理を行うことは大切である」と、口腔ケアの必要性について言及した。

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第19回 医療倫理なおざりに?政治主導の「大阪発ワクチン」開発は「人体実験」との批判

新型コロナウイルス対策を巡り、その決断力と実行力がたびたび称賛されてきた吉村 洋文・大阪府知事だが、ここに来て迷走気味である。先日、ヨウ素系うがい薬の推奨で品薄状態を招いたのは記憶に新しいが、6月に発表したワクチン開発を巡り、臨床試験を医療従事者対象に実施すると発言。医療従事者からは「人権侵害」「人体実験」との批判の声が相次いだのだ。吉村知事は8月4日の記者会見で、「うがい薬でうがいをすると、新型コロナの陽性者が減っていくのではないかという研究結果が出た」と述べ、20日までを強化月間として、ポビドンヨード液を使ってうがいするように呼び掛けた。会見の直後から、各地の店舗で当該製品の売り切れが続出し、ネットでは高額転売も見られた。これに対し、日本医師会の中川 俊男会長は「エビデンスとして十分ではない」と批判。大阪府保険医協会は「ポビドンヨードを使い過ぎると、かえって甲状腺機能を低下させる。感染予防には水うがいのほうが優れている」と懸念を示した。また、大阪府・市や大阪大、医療ベンチャー企業などが連携して開発を進めている「大阪発ワクチン」を巡っては、6月17日の記者会見で「今月末に大阪市立大学医学部附属病院の医療従事者に、まずは20~30例に投与予定」と話した。知事だけではない。その前日、16日には松井 一郎・大阪市長も同様の発言をしている。18日には、ワクチン開発に携わる森下 竜一・大阪大学寄附講座教授が日本抗加齢医学会のWEBメディアセミナーで、「秋に大阪大学医学部附属病院でも医療従事者を対象とした400人規模の臨床試験を実施する予定」と述べた。これに対し、医療従事者からは「病院の職員に検査を強制する人権侵害ではないか」といった批判や、「人体実験にならないか」との指摘が出ている。大阪府保険医協会は7月25日、吉村知事らの発言に対し声明を発表。最も問題視したのは「知事および市長が治験開始を発表した6月16、17日には、まだ大阪市立大学の審査委員会は開かれていなかった」ことだ。治験は、医薬品医療機器総合機構が調査を行った上で、実施医療機関の審査委員会による審査・承認を経なければスタートできない。専門家が誰からの干渉も受けず、効果と安全性を客観的、科学的に検証する必要がある。にもかかわらず、「治験を行う大阪市立大学の審査の1週間も前に知事や市長が公表したことは、厳正であるべき医薬品審査の手続きを完全に無視する非常に危険な行為である」と同協会は指摘。さらに、市大に予算や人事で大きな影響力を持つ知事や市長が先んじて公表することにより、「審査側が治験を認める方向に進むのは避けられず、本来指摘されるべき危険性が見逃されてしまう可能性もある」と懸念している。政治主導で推し進められている感のある「大阪発ワクチン」の開発。ワクチン自体、実現すれば大きな希望になることは間違いないが、あくまで政治家である吉村・松井両氏の胸の内にあるのは医療倫理よりも功名心なのではなかろうか。

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急性咽頭炎に対するアモキシシリンへの変更提案の論拠【うまくいく!処方提案プラクティス】第7回

 今回は、抗菌薬の処方提案について紹介します。抗菌薬の処方提案においては、(1)感染臓器、(2)想定される起炎菌(ターゲット)、(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。また、医師に提案する際は、上記の擦り合わせや治療方針の確認を心掛けましょう。患者情報40歳、男性(会社員)現 病 歴 :高血圧血圧推移:130/70台既 往 歴 :15歳時に虫垂炎にて手術主  訴:咽頭痛、発熱、頸部リンパ節の腫脹処方内容1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後3.トラネキサム酸錠500mg 3錠 分3 毎食後4.ポビドンヨード含嗽剤7% 30mL 1日数回含嗽症例のポイントこの患者さんは、2日前より咽頭痛と発熱が生じたため、かかりつけの診療所を受診しました。来院時の発熱は38℃後半で、圧痛を伴う頸部リンパ節の腫脹から急性咽頭炎と診断され、上記の薬剤が処方されました。薬局でのインタビューでは、とくに咽頭の症状が強く、唾をのみ込むときに口の中や咽頭に強い痛みを感じていましたが、鼻汁や咳嗽はないということを聞き取りました。まず気になったのは、急性咽頭炎に対してレボフロキサシンが処方されていたことです。急性咽頭炎の大多数はウイルス性であり、細菌性の割合は10%程度と低めですので、抗菌薬が必要ないことも多くあります。この患者さんは下表のように細菌性も十分疑われますが、細菌性の場合に主にターゲットとなりうる起炎菌はA群β溶血性連鎖球菌(group A β-hemolytic streptococcus:GAS)です。レボフロキサシンは広域スペクトラムかつ肺結核をマスクするリスクなどもありますので、本症例においては特別な理由がなければ第1選択には挙がらない抗菌薬ではないかと考えました。咽頭感染かつGASがターゲットであればペニシリン系抗菌薬のアモキシシリンが第1選択薬となります。そこで、患者さんにペニシリンやほかのβラクタム系抗菌薬によるアレルギーがないことを確認したうえで、医師に疑義照会することにしました。<細菌性咽頭炎を疑うためのツール>(文献2より改変)処方提案と経過電話にて、本症例における処方医の考えるターゲットと治療方針を確認したところ、GAS迅速抗原検査は陽性であり、細菌性咽頭炎の診断はついているということがわかりました。そして、「GAS陽性=レボフロキサシン」という認識で薬剤選択をしたと回答がありました。確かにレボフロキサシンも感受性はありますが、今回の症例のように症状が咽頭に限局しているGASをターゲットとして治療する場合、アモキシシリンのほうがより狭域で感受性が高いことを提案しました。医師は、アモキシシリンはあまり使ったことがないからそれでよいのか判断に迷われていましたが、処方提案の承認を得ることができました。薬剤変更の結果、アモキシシリン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後で10日間投与することとなりました。その後、患者さんは10日間のアモキシシリンの治療を終了し、咽頭炎は軽快しました。1)厚生労働省健康局結核感染症課 編. 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版. 厚生労働省健康局結核感染症課;2017.2)岸田直樹. 総合診療医が教える よくある気になるその症状 レッドフラッグサインを見逃すな!. じほう;2015.3)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版;2019.

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上戸彩さんの風邪予防法は毎日のうがい

 うがいと手洗いは、医療者であれば普段から身に付いた習慣である。まして空気の乾燥する冬季には、なお重要となる。医療機関、家庭で愛用されてきたうがい薬ポビドンヨード(商品名:イソジン)を製造するムンディファーマ株式会社は、2018年10月11日、イソジンの新製品の記者発表会を都内で開催した。(写真は左からシン氏、上戸さん、木村氏) 発表会では同社の事業戦略の説明のほか、同社がパートナー契約を締結している横浜F・マリノスの現役の選手、および同社のCMに出演している女優の上戸 彩さんが応援に駆け付けた。新しいイソジンは無色でさわやかな風味 はじめに同社のラマン・シン氏(最高経営責任者)と木村 昭介氏(代表取締役社長)が、事業紹介と今後の展望を説明した。 同社は、イソジンをはじめとする「コンシューマヘルスケア」のほか、「疼痛」「がん」などの医療分野でわが国に製品提供を行っている。とくに総合感染対策としてうがい薬「イソジン」は長年愛され、医療現場だけでなく、家庭でも使用されている。 事業説明では、うがい薬市場がすこしずつ縮小していく中でイソジンは二桁の成長を遂げていること、そして、今後は「定期的なうがい習慣のない人々への浸透をいかに図っていくかが課題」と語った。 つぎに横浜F・マリノスとのブレーンストーミングで誕生した製品「イソジン のど飴」を紹介。本製品は、食品に位置付けられ、のどにやさしい亜鉛とヘスペリジンが配合されている。フレ-バーは、「フレッシュレモン」「はちみつ金柑」「ペパーミント」の3種類が用意されている。「うがいができないとき、のどを守るのに役立つアイテム」と同社は説明するとともに、今後日本発の製品として世界展開を行うとしている。 その他、新製品のイソジンとして無色透明で、風味をつけた「イソジン クリアうがい薬」(アップル風味/マイルドミント風味)を紹介。洗面台を汚さない、消毒薬の臭いのしない製品をユーザー目線で開発したと紹介した。 説明会では、シン氏は「日本からいくつか製品のイノベーションができた。今後もイソジンのブランド力を保持しつつ、より改良を行いたい」と抱負を語り、木村氏は「感染対策にさまざまな場面で提供できる製品を作っていきたい」と述べ、説明を終えた。水うがいで防ぎ切れないときはイソジンで トークセッションでは、横浜F・マリノスの選手たちがコンディション維持のためのうがいやのどの保湿の重要性を語るとともに、同社のCMに出演中の上戸さんが登場し、自己流の風邪予防法やCM撮影の裏話を披露した。扁桃腺が腫れやすいという上戸さんは、母親として子供からのもらい風邪対策や体調維持のために、うがいやイソジンの噴霧器、のど飴を携帯することで気を付けているという。最後にメッセージとして「自分が健康だと気分がいいし、周りにも風邪などうつさないことが大事。水うがいだけでは効果がないこともあるので、イソジンなどで感染予防をしてほしい」と語り、セッションを終えた。

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新たな点眼薬、アデノウイルス結膜炎に効果

 急性アデノウイルス結膜炎に対する、ポビドンヨード(PVP-I)0.6%/デキサメタゾン0.1%懸濁性点眼液の有効性および安全性を評価する多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験(第II相臨床試験)が行われ、米国・セントルイス・ワシントン大学のJay S. Pepose氏らが結果を報告した。PVP-I/デキサメタゾンは安全性および忍容性が良好で、プラセボと比較し臨床的寛解率およびアデノウイルス除去率を有意に改善することが認められたという。American Journal of Ophthalmology誌2018年オンライン版5月19日号掲載の報告。 研究グループは、Rapid Pathogen Screening Adeno-Detector Plus testで急性アデノウイルス結膜炎に陽性の成人患者を、PVP-I 0.6%/デキサメタゾン0.1%群、PVP-I 0.6%群または溶媒(プラセボ)群に、1対1対1の割合で無作為に割り付け、両眼に1日4回、5日間投与し、3日目、6日目および12日目に評価した(+1-day window)。 有効性の評価項目は、臨床的寛解(試験眼の結膜炎による水溶性眼脂と眼球結膜充血がそれぞれ消失)およびアデノウイルス除去の複合エンドポイントであった。 主な結果は以下のとおり。・有効性解析の対象症例は144例であった(PVP-I/デキサメタゾン群48例、PVP-I群50例、プラセボ群46例)。・LOCF解析に基づく6日目の臨床的寛解率は、PVP-I/デキサメタゾン群31.3%、PVP-I群18.0%(有意差なし)、プラセボ群10.9%(p=0.0158)で、PVP-I/デキサメタゾン群がプラセボ群より有意に高かった。・アデノウイルス除去率(LOCF法にて、試験眼の培養細胞が免疫蛍光法で陰性となる患者の割合を解析)は、PVP-I/デキサメタゾン群がプラセボ群より、3日目(35.4% vs.8.7%、p=0.0019)および6日目(79.2% vs.56.5%、p=0.0186)ともに有意に高かった。・PVP-I群のアデノウイルス除去率は、3日目32.0%、6日目62.0%で、いずれもPVP-I/デキサメタゾン群と有意差はなかった。・治療下で発現した有害事象(AE)は、PVP-I/デキサメタゾン群で53.4%、PVP-I群で62.7%、プラセボ群で69.0%にみられた。・AEによる中止は37例(PVP-I/デキサメタゾン群9例、PVP-I群12例、プラセボ群16例)であった。

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CLEAN試験:血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコール(解説:小金丸 博 氏)-440

 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)はありふれた医療関連感染であり、死亡率も高いことが知られている。カテーテル挿入時の皮膚消毒は感染予防に重要であり、今までも適切な皮膚消毒薬について議論されてきた。米国疾病予防管理センター(CDC)は、カテーテル挿入時の皮膚消毒に、0.5%を超えるクロルヘキシジンを含むクロルヘキシジン・アルコールを推奨しているが、クロルヘキシジン・アルコールとポビドンヨード・アルコールをhead-to-headで比較した大規模試験は存在しなかった。 本研究は、血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒薬として、2%クロルヘキシジン・70%イソプロピルアルコールと5%ポビドンヨード・69%エタノールの有効性を比較した、ランダム化比較試験である。両群をさらに消毒前の皮膚洗浄(scrubbing)の有無で1:1:1:1の4群に割り付けした(2×2要因デザイン)。動脈カテーテル、血液透析カテーテル、中心静脈カテーテルの留置が48時間以上必要な18歳以上の成人2,546例を対象とし、カテーテル関連感染症の発生率を主要評価項目とした。カテーテル関連感染症の定義は、菌血症を伴わないカテーテル関連敗血症、あるいはCRBSI(血液培養が陽性)とした。 カテーテル関連感染症の発生率は、クロルヘキシジン・アルコール群で0.28/1,000カテーテル日、ポビドンヨード・アルコール群で1.77/1,000カテーテル日であり、クロルヘキシジン・アルコール群が有意に低率だった(ハザード比:0.15、95%信頼区間:0.05~0.41、p=0.0002)。CRBSIの発生率もクロルヘキシジン・アルコール群で低率だった(0.28 vs.1.32/1,000カテーテル日)。消毒前の皮膚洗浄の有無では、カテーテル関連感染症、CRBSIの発生率に差はなかった。 また、全身性の有害事象は認めなかったが、クロルヘキシジン・アルコール群で重篤な皮膚反応を多く認めた(3% vs.1%)。 カテーテル挿入部位や手術部位など皮膚の消毒には、クロルヘキシジンの有効性が報告されてきており、本研究でもポビドンヨードと比較してクロルヘキシジンの有効性が示された。過去の研究では、カテーテルコロニゼーション(カテーテルへの菌の定着)を主要評価項目としているものが多く、もともとCRBSIの発生率が低い集団において、カテーテル関連感染症の発生率を大きく低下させることを示した意義は大きい。今後さらに、クロルヘキシジン・アルコールを皮膚消毒に使用する流れが加速するだろう。 現時点で、日本では2%クロルヘキシジン製剤が発売されておらず、使用することはできない。多くの施設では、CDCガイドラインで推奨されている「0.5%を超える濃度のクロルヘキシジン」という文言を参考に、1%クロルヘキシジン・アルコール製剤を使用していると思われる。今後も1%クロルヘキシジン・アルコールを使用するのであれば、1%製剤はポビドンヨードより有効なのか、2%クロルヘキシジン・アルコールと効果は同等なのか、有害事象の発生率に差はないのか、といった疑問を解決してくれるような研究が必要と考える。

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カテーテル関連感染症、クロルヘキシジン消毒で大幅減/Lancet

 カテーテル挿入前に、皮膚消毒をクロルヘキシジン・アルコールで行うと、ポビドンヨード・アルコールを使った場合に比べて、カテーテル関連感染症リスクは85%低下することが示された。フランス・CHU de PoitiersのOlivier Mimoz氏らが、2,546例を対象とした無作為化比較試験の結果、報告した。結果を踏まえて著者は、「血管内カテーテル関連感染症予防のためにも全例について、皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコールを用いるべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年9月17日号掲載の報告より。皮膚消毒前の洗剤による皮膚洗浄の有無についても比較 研究グループは、2012年10月~14年2月にかけて、フランス国内11ヵ所のICU入室となり、中心静脈カテーテル、血液透析、動脈カテーテルのいずれかを行った18歳以上の患者2,546例を対象に試験を行った。クロルヘキシジン・アルコールまたはポビドンヨード・アルコールによる皮膚消毒の、カテーテル関連の感染症予防効果について比較を行った。 被験者を無作為に4群に分け、2%クロルヘキシジン・70%イソプロピルアルコールまたは5%ポビドンヨード・69%エタノールのいずれかによる皮膚消毒群、および同実施前の洗剤による皮膚洗浄の有無別に割り付けた。 医師、看護師は、割り付けについてマスキングされなかったが、細菌学者およびアウトカム評価者には割り付けをマスキングされた。 主要アウトカムは、カテーテル関連感染症の発生率だった。皮膚洗浄の有無は感染率に有意差みられず クロルヘキシジン・アルコール群は1,181例、そのうち洗剤による皮膚洗浄を行ったのは594例だった。ポビドンヨード・アルコール群は1,168例、うち皮膚洗浄群は580例だった。 カテーテル関連感染症の発生率は、ポビドンヨード・アルコール群が1.77/1,000カテーテル日に対し、クロルヘキシジン・アルコール群は0.28/1,000カテーテル日と有意に低率だった(ハザード比:0.15、95%信頼区間:0.05~0.41、p=0.0002)。 洗剤による皮膚洗浄の有無では、同発生率に有意差はなかった(p=0.3877)。 また、全身性有害事象は認められなかったが、重篤皮膚反応の発生が、ポビドンヨード・アルコール群で1%(7人)に対しクロルヘキシジン・アルコール群では3%(27人)と有意に高率にみられた(p=0.0017)。2例はクロルヘキシジン・アルコール中断となった。

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中心静脈カテーテル 感染予防に有効な消毒薬は

 血液内科領域の患者における中心静脈カテーテル挿入部位の皮膚消毒にはどの消毒液を使用すればよいのだろうか。福島県立医科大学の山本 夏男氏らは、1%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノールと10%ポビドンヨードの効果を比較した。その結果、1%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノールのほうがより効果的であることがわかった。American Journal of Infection Control誌2014年5月号(オンライン版2014年3月18日)の掲載報告。 著者らは、前向き研究により、血液内科における中心静脈カテーテル長期留置患者を対象とし、1%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノールと10%ポビドンヨードの皮膚消毒効果について比較を行った。 主な結果は、以下のとおり。・1%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール使用群と10%ポビドンヨード使用群のCVCコロニゼーション発生率はそれぞれ11.9%、29.2%であった。・カテーテル関連血流感染の発生率は、1,000カテーテル日当たりそれぞれ0.75件、3.62件であった。

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急性喉頭蓋炎を風邪と診断して死亡に至ったケース(1)

救急医療最終判決判例時報 1224号96-104頁概要数日前から風邪気味であった35歳男性が、深夜咽頭の痛みが激しくなり、呼吸のたびにヒューヒューという異常音を発し呼吸困難が出現したため、救急外来を受診。解熱鎮痛薬、抗菌薬、総合感冒剤などを処方されていったん帰宅するが、病状がますます悪化したため当日午前中の一般外来を受診。担当した内科医師は、胸部X線写真には異常はないため感冒による咽頭炎と診断し、入院は不要と考えたが、患者らの強い希望により入院となった。ところが、入院病棟に移動した1時間後に突然呼吸停止となり、気管内挿管が困難なため緊急気管切開を行ったが、植物状態となって死亡した。解剖の結果、急性化膿性喉頭蓋炎による窒息死と判断された。詳細な経過患者情報35歳男性経過1980年7月下旬この頃から風邪気味であり、体調不十分であったが、かなり無理をして行動していた。8月4日02:00頃咽頭の痛みが激しくなり、呼吸が苦しく、呼吸のたびにヒューヒューという異常音を発するようになった。04:40A病院の救急外来を受診。当直の外科医が診察し、本人は会話困難な状態であったので、付添人が頭痛、咽頭痛、咳、高熱、悪寒戦慄、嚥下困難の症状を説明した。体温39℃、扁桃腫脹、咽頭発赤、心音正常などの所見から、スルピリン(商品名:メチロン)筋注、リンコマイシン(同:リンコシン)筋注、内服としてメフェナム酸(同:ポンタール)、非ピリン系解熱薬(同:PL顆粒)、ポビドンヨード(同:イソジンガーグル)を処方し、改善が得られなければ当日定刻から始まる一般外来を受診するように説明した。10:00順番を待って一般外来患者として内科医の診察を受ける。声が出ないため、筆談で「息が苦しいから何とかしてください。ぜひとも入院させてください」と担当医に手渡した。喉の痛みをみるため、舌圧子で診察しようとしたが、口腔奥が非常に腫脹していて口があけにくく、かつ咳き込むためそれ以上の診察をしなかった。高熱がみられたので胸部X線写真を指示、車椅子にてX線室に向かったが、その途中で突然呼吸停止状態に陥り、異様に身体をばたつかせて苦しがった。家族が背中を数回強くたたき続けていたところ、しばらくしてやっと息が通じるようになったが、担当医師は痰が喉にひっかかって生じたものと軽く考えて特別指示を与えなかった。聴診上軽度の湿性ラ音を聴取したが、胸部X線には異常はないので、「感冒による咽頭炎」と診断し、入院を必要とするほどでもないと考えたが、患者側が強く希望したため入院とした。10:30外来から病棟へ移動。11:00担当医師の指示にて、乳酸リンゲル液(同:ポタコールR)、キサンチン誘導体アミノフィリン(同:ネオフィリン)、β刺激薬(アロテック®;販売中止)、去痰薬ブロムヘキシン(同:ビソルボン)などの点滴投与を開始。11:30突然呼吸停止。医師らが駆けつけ気管内挿管を試みるが、顎関節が硬直状態にあって挿管不能。そのため経皮的にメジカット3本を気管に穿刺、急いで中央材料室から気管切開セットを取り寄せ、緊急気管切開を施行した。11:50頃人工呼吸器に接続。この時は心停止に近い状態のため、心マッサージを施行。12:30ようやく洞調律の状態となったが、いわゆる植物状態となった。8月11日20:53死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.不完全な診察当直医師は呼吸困難・発熱で受診した患者の咽頭部も診察しないうえに、「水も飲めない患者に錠剤を与えても飲めません」という訴えを無視して薬を処方した。そのあとの内科医師も、異常な呼吸音のする呼吸困難の患者に対し、単に口を開かせて舌圧子をあてようとしたが咳き込んだので中止し、喉頭や気管の狭窄を疑わず、さらにX線室前で窒息状態になったのにさしたる注意を払わなかった2.診断に関する過誤患者の徴候、症状を十分観察することなく風邪による扁桃腺炎または咽頭炎と軽率な診断を下し、「息が苦しいので何とかしてください」という患者の必死の訴えを放置して窒息させてしまった。少なくとも万一の窒息に備えて気管切開の準備をなすべきであった。たまたま常勤の耳鼻科医師が退職して不在であり、外部から耳鼻科医師が週何回か来診する状態であったとしても、耳鼻科専門医の不在が免責理由にはならない3.気道確保の時機を逸した呼吸停止から5~6分以内に呼吸が再開されなければ植物状態や脳死状態になる恐れがあるのに、はじめから確実な気道確保の方法である気管切開を行うべきであったのに、気管内挿管を試みたのち、慌てて気管切開のセットを取りにいったが、準備の不手際もあって気道を確保するまでに長時間を要し植物状態となった病院側(被告)の主張1.適切な入院措置外来での診察は、とりあえずの診断、とりあえずの加療を行うものであり、患者のすべてを把握することは不可能である。本件の外来診察時には努力呼吸やチアノーゼを伴う呼吸困難はみられなかったので、突然急激な窒息状態に至るという劇的な転帰は到底予見できないものであり、しかもきわめて希有な病変であったため、入院時に投与された気管支拡張薬や去痰薬などの薬効があらわれる前に、そして、入院の目的や長所が十分機能する前に窒息から脳死に至った2.予見不可能な急激な窒息死成書においても、成人における急性化膿性喉頭蓋炎の発症および発症による急激な窒息の予見は一般的ではなく、最近ようやく医学界で一般的な検討がなされ始めたという段階である。したがって、本件死亡当時の臨床医学の実践における医療水準に照らすと、急性化膿性喉頭蓋炎による急激な窒息死の予見義務はない。喉頭鏡は耳鼻科医師によらざるを得ず、内科医師にこれを求めることはできない3.窒息後の救急措置窒息が生じてからの措置は、これ以上の措置は不可能であるといえるほどの最善の措置が尽くされており、非難されるべき点はない裁判所の判断1.喉頭部はまったく診察せず、咽頭部もほとんど診察しなかった基本的過失により、急性化膿性喉頭蓋炎による膿瘍が喉頭蓋基部から広範囲に生じそれが呼吸困難の原因になっている事実を見落とし、感冒による単純な咽頭炎ないし扁桃腺炎と誤診し、その結果気道確保に関する配慮をまったくしなかった2.異常な呼吸音、ほとんど声もでず、歩行困難、咽頭胃痛、嚥下困難、高熱悪寒の症状があり、一見して重篤であるとわかるばかりか、X線撮影に赴く途中に突然の呼吸停止を来した事実の緊急報告を受けたのであるから、急性化膿性喉頭蓋炎の存在を診察すべき注意義務、仮にその正確な診断までは確定し得ないまでも、喉頭部に著しい狭窄が生じている事実を診察すべき注意義務、そして、当然予想される呼吸停止、窒息に備えていつでも気道確保の手段をとり得るよう予め準備し、注意深く症状の観察を継続するべき注意義務があった3.急性化膿性喉頭蓋炎による成人の急激な窒息は当時の一般的な知見ではなく、予測できなかったとA病院は主張するが、当然診察すべき咽喉頭部の診察を尽くしていれば、病名を正確に判断できなくても、喉頭部の広範囲な膿瘍が呼吸困難の原因であり、これが増悪した場合気道閉塞を起こす可能性があることを容易に予測できたと考えられる4.当時耳鼻科常勤医の退職直後で専門医が不在であったことを主張するが、総合病院と称するA病院においては、内科とともに耳鼻咽喉科を設置しなければならず、各科に少なくとも3人の医師を設置しなければならないため、耳鼻科常勤医不在をもって責任を否定することはできない5.しかし、急性化膿性喉頭蓋炎によって急激な窒息死に至る事例はまれであること、体調不十分な状態で無理をしたことおよび体質的素因が窒息死に寄与していることなどを考慮すると、窒息死に対する患者側の素因は40%程度である原告側合計7,126万円の請求に対し、3,027万円の判決考察普段、われわれが日常的に診察している大勢の「風邪」患者の中にも、気道閉塞から窒息死に至るきわめて危険なケースが混じっているということは、絶対に忘れてはならない重要なことだと思います。「なんだ、風邪か」などと高をくくらずに、風邪の背後に潜んでいる重大な疾病を見落とすことがないよう、常に医師の側も慎重にならなくてはいけないと痛感しました。もし、私がこのケースの担当医だったとしても、最悪の結果を回避することはできなかったと思います。実際に、窒息後の処置は迅速であり、まず気管内挿管を試み、それが難しいと知るやただちに気管にメジカット3本を刺入し、大急ぎで気管切開セットを取り寄せて緊急気管切開を行いました。この間約20分弱ですので、後方視的にみればかなり努力されたあとがにじみ出ていると思います。ではこの患者さんを救命する方法はなかったのでしょうか。やはりキイポイントは病棟に上がる前に外来のX線室で呼吸停止を起こしたという事実だと思います。この時の判断は、「一時的に痰でもつまったのであろう」ということでしたが、呼吸器疾患をもつ高齢者ならまだしも、本件は既往症をとくにもたない35歳の若年者でしたので、いくら風邪でも痰を喉に詰まらせて呼吸停止になるというのはきわめて危険なサインであったと思います。ここで、「ちょっとおかしいぞ」と認識し、病棟へは「緊急で気道確保となるかも知れない」と連絡をしておけば、何とか事前に準備ができたかも知れません。しかし、これはあくまでも後方視的にみた第三者の意見であり、当時の状況(恐らく外来は患者であふれていて、診察におわれていたと思われます)からはなかなか導き出せない、とても難しい判断であったと思います。救急医療

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歯周炎治療によってHbA1cは改善するか/JAMA

 慢性歯周炎を有する2型糖尿病患者について、慢性歯周炎の非外科的治療を行っても、HbA1c値の改善は認められないことが、米国・ニューヨーク大学歯学部のSteven P. Engebretson氏らが、患者500例超について行った無作為化比較試験の結果、明らかにされた。慢性歯周炎は糖尿病患者において広く認められる。これまで限定的ではあるが、歯周炎を治療することで血糖コントロールが改善する可能性があることが示唆されていた。JAMA誌2013年12月18日号掲載の報告より。歯石取りやルートプレーニングなどを行い、非治療群と比較 Engebretson氏らは2009年11月~2012年3月にかけて、慢性歯周炎が認められるが未治療であり、HbA1c値が7%以上9%未満の2型糖尿病患者、合わせて514例について試験を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方の群(257例)にはベースライン時に歯石取りとルートプレーニング、抗菌薬(クロルヘキシジン含嗽剤)による洗口を行い、その後3、6ヵ月時点で歯周治療支持療法(SPT)を行った。もう一方の群(257例)は対照群として歯周病の治療は行わなかった。 主要アウトカムは、6ヵ月後のHbA1c値の変化だった。副次的アウトカムは、歯周ポケットの深さやアタッチメントロス(歯肉上皮とセメント質の付着喪失)などだった。6ヵ月後のHbA1c値は両群で有意差なし その結果、6ヵ月後のHbA1c値は治療群が平均0.17%増加(標準偏差:1.0)、非治療群は同0.11%増加(同:1.0)と、線形回帰モデルによる補正後、両群で有意な格差は認められなかった(格差平均:-0.05%、95%信頼区間:-0.23~0.12、p=0.55)。そのため試験は、予定より早期に中止となった。 一方、歯周炎に関する臨床的測定値は、治療群が非治療群に比べ有意に改善した。両群格差の平均値は、歯周ポケットの深さが0.28mm(同:0.18~0.37)、アタッチメントロスは0.25mm(同:0.14~0.36)、プロービング時の出血は13.1%(同:8.1~18.1%)、歯肉炎指数は0.27(同:0.17~0.37)だった(いずれもp<0.001)。 著者は、非外科的歯周炎治療は、2型糖尿病患者の血糖コントロールを改善しなかったものの、歯周炎の進行を抑制したと述べ、「糖尿病患者において、HbA1c値低下を目的とした非外科的歯周炎治療は支持しない」と結論している。

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鎖骨下静脈穿刺後の無気肺で死亡したケース

感染症最終判決判例時報 1589号106-119頁概要金属プレス機に両手を巻き込まれた19歳男性。救急搬送された大学病院にて、手袋の繊維、機械油で汚れた手をガーゼ、ブラシで洗浄し、消毒、デブリードマンを施行した。左手には有茎植皮術、右手には一時的な創縫合手術を施行し、術後抗菌薬を投与した。投与後、創部から黄緑色の浸出液と刺激臭があり、緑膿菌感染を疑い硫酸ゲンタマイシンンなどを追加。その後、浸出液と刺激臭は消失し、壊死部の除去を含めた右手皮弁切離術、左手小指端形成術を施行した。さらに右手では左胸部有茎植皮術、左手では腹部有茎植皮術を行った。約1週間後に41.1℃の発熱があり、敗血症疑いから血液培養を施行(結果は陰性)。しかし、翌日に軽度の呼吸困難があり、突然の痙攣発作と意識障害が出現したことからエンドトキシンショックを疑い、血管確保の目的で鎖骨下静脈穿刺が行われた。穿刺中に患者が上体を起こしたことから中止し、身体拘束後に再度右鎖骨下静脈にラインを確保した。しかし、胸部X線写真で右鎖骨下に血腫を認めたため、再度右そけい部からカテーテルを挿入した。その後、瞳孔散大傾向、対光反射喪失、嘔吐もみられたので気管内挿管を施行。諸検査を行おうとしたところ、心肺停止状態となり、蘇生が開始されたが、死亡した。詳細な経過患者情報19歳男性経過1990年8月17日12:10金属プレス機のローラーに両手を挟まれて受傷した19歳男性。某大学病院に救急搬送された時には、受傷時につけていた手袋の繊維、機械油などで両手の傷は著しく汚染されていた。13:30頃創洗浄開始。14:45緊急手術のための麻酔開始。同時にガーゼ、ブラシを用いた洗浄、消毒、デブリードマン施行。洗浄用の生食水(500mL)40本使用。左手:手掌皮膚は手関節から基節骨までグローブ状に剥離:有茎植皮術施行右手:手背の皮膚欠損および筋挫滅、一部では骨にまで達する:一時的な創縫合手術施行術後抗菌薬としてセフメタゾールナトリウム(商品名:セフメタゾン)、硫酸ジベカシン(同:パニマイシン)を使用。8月30日はじめて創部から黄緑色の浸出液と刺激臭があり、緑膿菌感染が疑われたため、硫酸ゲンタマイシン(同:ゲンタシン軟膏)、セフタジジム(同:モダシン)を投与。9月4日黄緑色浸出液と刺激臭はほとんど消失。9月10日右手皮弁切離術、左手小指断端形成術(壊死部の除去も行う)。9月26日浸出液が消失する一方、壊死部もはっきりとしてきたので、右手は左胸部有茎植皮術、左手は腹部有茎植皮術施行。術後から38~39℃の発熱が持続。10月1日41.1℃の発熱があり、敗血症を疑って血液培養施行(結果は陰性)。10月2日15:20軽度の呼吸困難出現。15:30突然痙攣発作と意識障害が出現。血圧92mmHg、脈拍140、呼吸回数22回。内科医師の往診を受け、エンドトキシンショックが疑われたため、血管確保目的で鎖骨下静脈穿刺が行われた。ところが穿刺中に突然上体を起こしてしまったため、いったん穿刺を中止。その後身体を拘束したうえで再度右鎖骨下静脈にラインを確保した。ところが、胸部X線写真で右鎖骨下に血腫を認めたため、カテーテルを抜去、右そけい部から再度カテーテルを挿入した。16:30瞳孔散大傾向、対光反射がなくなり、嘔吐もみられたため気管内挿管施行。腰椎穿刺にて採取した髄液には異常なかった。そこで頭部CTを施行しようと検査室に移動したところで心肺停止状態となる。ただちに蘇生が開始されたが反応なし。19:57死亡確認。病理解剖の結果、両肺無気肺(ただし左肺は一部換気)、(敗血症性)脳内小血管炎、脳浮腫、感染脾、全身うっ血傾向、右鎖骨下血腫、右胸水が示された。当事者の主張患者側(原告)の主張生命の危険性、あるいは手指の切断についての説明がないのは説明義務違反がある適切な感染症対策を行わず、敗血症に罹患させたのは注意義務違反である鎖骨下静脈穿刺により、無気肺を生じさせたのは注意義務違反である緑膿菌などに感染し、敗血症性の呼吸困難が生じていたことに加え、鎖骨下静脈穿刺の際に生じた鎖骨下血腫および血性胸水が無気肺をもたらしたことが原因となり、呼吸不全から心停止にいたり死亡した病院側(被告)の主張容態急変する前の9月26日までは順調に経過しており、手術前にその急変を予測して説明を行うのは不可能であった創は著しく汚染されていたので、無菌化することは困難であった。感染すなわち失敗という考え方は妥当ではない鎖骨下静脈穿刺により、無気肺を生じたとしても、患者が突然寝返りを打つなどして動いたことが原因である。患者救命のための緊急事態下で行われた措置であることを考慮すれば、不可抗力であった病理解剖所見では、突然の呼吸停止とまったく蘇生不能の心停止が同時に生じるという臨床的経過と符合しないため、結局突然死と診断されており、死亡原因の特定はできない裁判所の判断1.病院側は原因不明の突然死というが、病理解剖の結果心臓には心停止をもたらすような病変は確認されておらず、敗血症性の感染症および無気肺の存在以外には死亡に結びつく病変は確認されていないので、原告の主張通り、緑膿菌などに感染し、敗血症性の呼吸障害ないしは呼吸機能の低下、ならびに鎖骨下静脈穿刺の際に生じた鎖骨下血腫および血性胸水が無気肺をもたらしたことによる換気能力の低下、呼吸不全から心停止にいたり死亡した2.ゴールデンアワー内に十分な洗浄、消毒、デブリードマンなどを徹底して行い、その後も十分な洗浄、消毒、デブリードマンを行うべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った。その結果、敗血症性の重篤な感染症に罹患させたものである3.鎖骨下静脈穿刺の時にはいつ痙攣や不穏状態が生じるか予測できない状態であったので、穿刺時の不測の体動を予見することは十分に可能であった。そのため、身体を拘束したうえで鎖骨下静脈穿刺を行うべき注意義務を違反した4.説明義務違反は十分な洗浄や消毒を行わなかった過失に含まれる原告側合計7,077万円の請求に対し、5,177万円の判決考察この判決内容を熟読してみて、臨床を熱心に実践されている先生方のご苦労と、ひとたび結果が悪かった時に下される司法の判断との間には、大きな相違があると感じずにはいられませんでした。まず、最大の誤解は、「手の開放創からの感染は、十分な洗浄、消毒、デブリードマンを徹底して施行すれば、ほぼ確実に防止できるものである」と断定していることだと思います。いくら抗菌薬が発達した現代であっても、本件のような難治性の感染症を完全に押さえ込むのが難しいことは、われわれが常日頃感じているジレンマのような気がします。本件で不十分と判断されてしまった創の消毒・洗浄方法をもう一度みてみると、12:40(受傷後30分)救急搬入、バイタルサインが安定していることを確かめた後、両手に付着していた線維などを取り除いたうえで、ポビドンヨード(商品名:イソジン)、クロルヘキシジングルコン酸(同:ヒビテン)で消毒。13:30(受傷後1時間20分)抗菌薬を静注しながら、両腋窩神経、および腕神経叢ブロックを施行したうえで、ただちに創洗浄を開始。14:45(受傷後2時間35分)全身麻酔下の手術が必要と考えたため麻酔導入。麻酔完了後、ガーゼ、ブラシを用いながらヒビテン®液で軟部組織、骨、皮膚に付着した油様のものなどをよく洗浄したうえで消毒し、壊死組織、挫滅組織を切除、さらに生理食塩水でブラッシングしデブリードマンを完了。この間に使用した生食は20L。とあります。裁判ではしきりに、受傷後6時間以内のゴールデンタイムに適切な処置が行われなかったことが強調されましたが、このような病院側の主張をみる限り、けっして不注意があったとか、しなければならない処置を忘れてしまったなどという、不誠実なものではなかったと思います。少なくとも、受傷6時間の間に行った処置は、他人から批判を受けなければならないような内容とはいえないのではないでしょうか。にもかかわらず、「きちんと洗浄、消毒をすれば菌は消える」などと安易に考え、「菌が消えないのならば最初の処置が悪かったに決まっている」と裁判官が即断してしまったのは、あまりにも短絡しすぎていると思います。あくまでも過誤があると主張するのならば、洗浄に用いた生食が20Lでは足りなくて、30Lだったらよかったのでしょうか?そこまで医師の措置を咎めるのであれば、当時の医師たちのどこに不適切な点があって、どのような対策を講じたら敗血症にまでいかずにすんだのか、つまり今回と同様な患者さんが来院した場合には、どうすれば救命することができるのか、(権威ある先生にでも聞いたうえで)示すべきだと思うのですが、裁判官はその点をまったく考慮せず、一方的な判決となってしまいました。それ以外にも、容態急変時の血液ガスで酸素分圧が137.8mmHg(正常値は85~105)という数値をみて、「酸素分圧が正常値を大きく越えるものであり、無気肺により換気能力の低下を来した」と判断している点は、裁判官の勉強不足を如実に示しています。この当時、当然酸素投与がなされているはずですから、酸素分圧が137.8mmHgとなっても不思議に思わないし、それをもって換気障害があるとは判断しないのが常識でしょう。にもかかわらず、ことさら「酸素分圧が正常値を越えた」というだけで「注意義務違反に該当する医療行為があった」と短絡しているのは、どうも最初から「医者が悪い」という結論を導くために、こじつけた結果としか思えません。少なくとも、そのような間違った見解を判決文に載せる前に、専門家に確認するくらいの姿勢はみせるべきだと思います。鎖骨下静脈穿刺についても、同じようなことがいえると思います。当時の内科医師は、鎖骨下静脈穿刺前の局所麻酔の時に、患者がとくに暴れたり痛がったりしなかったので、あえて押さえつけながら穿刺を行わなかったと証言しています。これはごく当たり前の考え方ではないでしょうか。この裁判官の判断が正しいとするならば、意識がもうろうとしている患者さんに注射する時には、全員身体を拘束せよ、という極端な結論となります。実際の臨床現場では、そのようなことまであえてしないものではないでしょうか。病院側は不可抗力であったと主張していますが、そのように考えるのももっともであり、すべてが終わった後で判断する立場でこのような判決文を書くのは、少々行き過ぎのような気がしてなりません。ただ一方で、前途ある19歳の若者が命を落としてしまったのも事実です。その過程では、よかれと思った医療行為が裏目に出て、敗血症に至ったり、鎖骨下血腫を形成して死亡に少なからず寄与しました。しかし、ではどこでどのような反省をして、今後どのような対処をするべきかという、前向きの考え方がなかなかこのケースでは検討しにくいのではないでしょうか。つまり、本ケースのように医療行為の結果が悪くて裁判に発展してしまい、本件のような裁判官に当たると、医師にとって不利な判決にならざるを得ないという、きわめて釈然としない「医療過誤」になってしまうと思います。感染症

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